在シドニー総領事通信 : アーカイブ
第7回 ニューカレドニアと日本:
歴史的なつながりから観光と交流へ - 令和2年(2020年)1月24日
当館はニューカレドニアの領事業務も担当しています。1月5日から7日まで,ニューカレドニア日本人会の新年会に合わせて,初めてニューカレドニアを訪問し,在留邦人や政府関係者とお会いしました。その概要をご紹介しながら,ニューカレドニアと日本の歴史的なつながりや,観光をはじめとする交流の広がりについて考えたいと思います。
ニューカレドニア日本人会新年会・1月5日
シドニーから飛行機で約3時間,ニューカレドニアのヌメア国際空港に到着後,ヌメア市郊外で開催されていた日本人会新年会に直行しました。在留邦人は約260名で,新年会には日系人中心のニューカレドニア日本親善協会(Amicale Japonaise de Nouvelle-Calédonie)の会員も含めて約60名が出席していました。毎年1月の新年会は日本人会主催,7月の七夕会は日本親善協会主催で,その双方に両会会員が出席しているとのことです。新年会には年配の方から子供たちまで参加し,餅つきやスイカわりなど日本らしい行事が行われていました。
日本人墓地での献花。向かって左から3人目がタケ日本親善協会会長,4人目が紀谷総領事,
5人目がミシェル名誉領事,7人目が高橋日本人会会長
翌6日,ヌメア市内の日本人墓地で,ミシェル名誉領事,高橋日本人会会長,タケ日本親善協会会長他とともに献花を行いました。
ニューカレドニアは,フランスが1853年に領有を宣言して進出を始め,日本人は1892年にニッケル鉱山で労働するための契約移民として来訪しました。その後,1919年までの日本からニューカレドニアへの移民は約5600名に上ります。そのまま現地にとどまって所帯を持ち,島内各地で農業や商業などを続けた日本人も数多くいました。
しかし,1941年の太平洋戦争開戦により,連合軍と連携する自由フランスは日本人(日系1世)を敵性外国人とみなして逮捕し,約1100名がオーストラリアの強制収容所に移送されました。その多くは戦後の1946年に日本に送還され,ニューカレドニアに戻ることが認められませんでした。日本人同士の夫婦は財産を没収され,島に残され生き別れとなった妻や子どもは苦しい生活を余儀なくされました。
このような歴史を経て,現在のニューカレドニアには,約27万人の人口のうち約1万人の日系人がいるとされています。
献花を行った日本人墓地の敷地には,1943年8月に戦没した伊号第一七潜水艦の慰霊碑もあり,97名の戦没者の名前が刻まれていました。これは,戦後に戦没者の遺族により建造されたものに,近年日本親善協会がプレートや墓碑を添えた由です。
また,2012年にはニューカレドニア日本人移民120周年記念祭が開催され,重要なニッケル鉱山のあったチオにも日本人慰霊碑が建立されたとのことです。
日本から遠いニューカレドニアの地で,日本人墓地が現地の在留邦人や日系人により大切にされていることをありがたく思い,感銘を受けました。
ニューカレドニア第二次大戦博物館をミシェル名誉領事と訪問
ニューカレドニア第二次大戦博物館には,日本人の逮捕や強制収容所への送還,財産没収の記録も展示されています。案内してくれたミシェル名誉領事の祖父である高宗氏の記録もデータベースに残っていました。
ニューカレドニア日本人移民の歴史については,小林忠雄氏の「ニューカレドニア島の日本人-契約移民の歴史」(1977年)に詳しく書かれています。近年,関西学院大学教授の津田睦美氏が研究を進め,「マブイの往来:ニューカレドニア-日本 引き裂かれた家族と戦争の記憶」(2009年)などの本を出しています。更に,元琉球新報副社長の三木健氏がこの問題に関心を持って「空白の移民史―ニューカレドニアと沖縄―」(2018年)を出版し,それをもとにシネマ沖縄が制作した「まぶいぐみ~ニューカレドニア引き裂かれた移民史~」は2018年度文化庁映画賞の文化記録映画部門で大賞を取りました。
ヌメアの海岸の夕日
戦後,日本とニューカレドニアの関係は大きく変わりました。1966年に森村佳のニューカレドニア旅行記「天国にいちばん近い島」が出版され。1984年には原田知世主演で映画化されました。この映画を機に日本人観光客が増え,舞台となったウベア島にはリゾートホテルも作られました。現在,成田と関空からエアカラン航空の直行定期便が運航し(フライト約8時間・日本との時差-2時間),日本から毎年約2万人がニューカレドニアに渡航しています。ニューカレドニアにとって,フランス,オーストラリアと日本が来訪者数上位3か国です。
様々な交流も進んでいます。例えば,ニューカレドニア・マラソンは,東京都立川市のグループの協力で1983年に初めて開催され,例年多数の日本人が参加しています。地方公務員出身のマラソンランナーとして有名な川内優輝氏は,2008年この大会に出場して優勝し,そこで出会った女子マラソン選手と後に結婚して,昨年(2019年)は夫妻で招待選手として出場しました。
また,日本にとってニューカレドニアはニッケル鉱石の主要輸入元であり,ニッケルはステンレスや電子材料などに幅広く使われています。更に,日本からニューカレドニアにはトクヤマというセメント会社も進出しており,市内各所にはヌメア市とTOKUYAMAのロゴ入りの交通整理用コンクリートブロックが置かれ,とても目立っていました。
ルクリウ自治政府財務大臣との会談
1月6日,ニューカレドニア自治政府のルクリウ財務大臣と会談しました。ニューカレドニアは,2016年に太平洋諸島フォーラム(PIF)の正式メンバーとなり, 2018年の第8回太平洋・島サミット(PALM8)にはジェルマン自治政府大統領が初めて参加しました。ルクリウ財務大臣とは,歴史的なつながりから観光,スポーツ交流,ビジネスの推進など,日本とニューカレドニアの関係強化について有意義な意見交換を行いました。
フランス高等弁務官事務所のカブレラ事務総長との会談
同6日,フランス高等弁務官事務所のカブレラ事務総長とも意見交換を行いました。ニューカレドニアは,フランスの憲法上特別な地位・権限を与えられた海外領土であり,1998年のヌメア協定に基づき,フランス政府,独立派,反独立派の間で独立に関する政治プロセスが進められています。2018年11月に行われたニューカレドニア独立住民投票では独立賛成が43.6%,独立反対が56.4%となり,ニューカレドニアはフランスに留まることとなりました。2020年9月には第2回の住民投票が予定されており,今後の手続や課題について説明を受けました。また,ボンディル駐ニューカレドニア・フランス軍副司令官も訪問し,インド太平洋地域におけるフランスの安全保障政策や現下の課題について説明を受けました。
日本人会役員との意見交換。向かって左から3人目が高橋会長。
ニューカレドニア日本人会の役員の皆様には,新年会とは別途時間をいただいてご意見,ご要望を伺いました。同会は,ニューカレドニアに日本政府の事務所がない中で,日本語補習校の運営や,邦人保護など名誉領事の業務の側面支援をしていただいています。今回の訪問では,1月6日午前中に旅券更新,証明書発行などの領事出張サービスを行いました。今後とも,在留邦人の皆様のご意見,ご要望に可能な限り応えられるよう努力する所存です。
ヌメア市中心部
今回ニューカレドニアに出張して感じたのは,ニューカレドニアは日本と歴史的なつながりが深く,多くの日系人が在住しているのみならず,観光やスポーツ交流,更にはビジネスや太平洋・島サミット(PALM)など政治面でも関係が発展しつつあることです。その中で,独立に関する政治プロセスも動いており,今後の動向をしっかりと見極めて対応する必要があります。
当館としても,ニューカレドニア自治政府をはじめとする当地の幅広い関係者との対話と協力を進めるとともに,観光や交流を推進することで日本とニューカレドニアの関係が一層深まるよう取組を進めていきたいと思います。
ニューカレドニア日本人会
http://ncjapon.blog.fc2.com/
ニューカレドニア日本親善協会・タケ会長への叙勲式典
http://ncjapon.blog.fc2.com/blog-entry-80.html
ニューカレドニア第二次世界大戦博物館
https://www.noumea.nc/musee-de-la-seconde-guerre-mondiale
ドキュメンタリー映画「まぶいぐみ~ニューカレドニア引き裂かれた移民史」
https://mabuigumi.com/
津田睦美関西学院大学教授ウェブサイト
http://www.mutsumitsuda.com/top/
ニューカレドニア観光局
https://www.newcaledonia.travel/ja/
ジェルマン・ニューカレドニア自治政府大統領による安倍総理大臣表敬
https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/fr/page4_004021.html
インド太平洋におけるフランス(フランス外務省・国防省)
https://www.diplomatie.gouv.fr/en/country-files/asia-and-oceania/the-indo-pacific-region-a-priority-for-france/
https://www.defense.gouv.fr/layout/set/print/content/download/532754/9176250/version/3/file/France+and+Security+in+the+Indo-Pacific+-+2019.pdf