在シドニー総領事通信 : アーカイブ
第6回 西シドニー開発:日本企業への高い期待 - 令和2年(2020年)1月10日
新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
当地では森林火災による被害が一層拡大しております。オーストラリアの皆様に対し,心からのお見舞いを申し上げるとともに,一日も早く,事態が収束し復興が進むようお祈りいたします。
当地に着任してから,ビジネス面で最も注目を集めている話題は「西シドニー開発」です。日本企業の参画に対する期待は極めて高く,私自身,日本の技術やノウハウが最大限活用されるよう,幅広い関係者とともに取組を進めています。西シドニー空港の旅客運航開始予定は2026年ですが,諸準備に必要な時間を逆算すると,今年こそが鍵になります。最新の進展についてご紹介しながら,日本にとっての西シドニー開発の意義と可能性について考えたいと思います。
西シドニー国際空港体験センターでのエアーズNSW州西シドニー大臣挨拶
着任1週間後の10月18日,在シドニー領事団向けに西シドニー開発の現地視察説明会が開催され,私も参加しました。シドニー市内からバスで1時間ほどで西シドニー空港建設予定地に到着し,前月に開所したばかりの体験センターで,NSW州の担当大臣をはじめ主要責任者からの説明を受けました。建設予定地では既に造成工事が進んでおり,事業が計画段階から実施段階に移っていることを実感しました。
シドニー3大都市圏構想
© State of New South Wales through the Greater Sydney Commission
大シドニー圏(Greater Sydney)には現在470万人が住んでおり,40年後には800万人に増加する見込みです。今後,この人口増と経済・構造の変化に適応するために,「シドニー3大都市圏構想」が生まれました。産業・雇用・居住の基盤となる都市圏を「西部パークランドシティー」「中央リバーシティー」「東部ハーバーシティー」の3つに分散させ,「30分通勤圏(30 minute city)」など先駆的な目標を達成すべく,必要となる経済・社会インフラの投資とイノベーションを先行して推進していくというものです。
これを実現するための起動力となるのが,西シドニー国際空港とエアロトロポリスを中核とする西部パークランドシティー(Western Parkland City)の開発です。そのために,2018年3月,連邦政府・NSW州政府と関係8地方自治体が西シドニー都市協定(Western Sydney City Deal)に署名しました。
MoUパートナーを招いての西シドニー開発シンポジウム(2019年12月16日)
NSW州政府は,2017年8月のベレジクリアン州首相訪日を皮切りに,西シドニー開発に向けて日本企業等との連携を働きかけ,2018年10月~11月に三菱重工業,三井住友ファイナンシャルグループ,日立製作所,都市再生機構の4者との間でそれぞれMoUを締結しました。これは,公共交通やスマートシティなどの「質の高いインフラ」をはじめとする日本の技術やノウハウに対する期待の表われとも言えるでしょう。これと並行して,NSW州政府は西部都市エアロトロポリス公社(WCAA)の立ち上げ,MoUパートナーの10から18への拡大,計画の具体化をはじめとする作業を進めました。
そして,2019年の年末に新たな進展がありました。12月6日,西シドニー空港都市の計画パッケージが発表され,2月末を期限にコメントが求められました。12月16日にはWCAAが18のMoUパートナーを招き,連邦政府・州政府・地方自治体ハイレベルが揃って出席するシンポジウムを主催しました。WCAAの戦略文書や今後の日程もその場で発表され,2020年末にはエアロトロポリスに関する主要な政策文書がパブリック・コンサルテーションを経て確定することが明らかになりました。
WCAA戦略文書:区画と主要産業
今回の空港都市の計画パッケージとWCAAの戦略文書では,空港都市の10区画(precincts)のうち6区画の計画を優先的に進めること,その中でも(1)エアロトロポリス・コア区画での先端製造業・防衛航空宇宙産業,(2)農業ビジネス区画での先端農業・加工食品産業・ロジスティックスに優先して取り組むことが記されています。
WCAA戦略文書:公共交通と各種インフラ
さらに,24時間運用の空港を支える公共交通システムや,スマートシティ技術を活用した水・エネルギー・廃棄物処理の連携も導入することを計画しています。
私自身,12月16日のWCAA主催シンポジウムに出席して,西シドニー開発プロジェクトでなぜ日本への期待が高いのか,自分なりに理解できました。日本は,産業化が進展する中で,首都圏とベッドタウンを公共交通機関で結び付けながら,徐々に中心都市を増やして発展してきました。例えば,横浜のみなとみらいや筑波研究学園都市は,都心からスピンオフして職住を近接させる都市計画の成功モデルになっています。日本の公共交通機関の効率性やゴミ収集のきめ細かさは世界に類を見ません。エネルギーやICTの実用化も世界最高水準です。そして,日本の大企業,中小企業,スタートアップ企業はそれぞれの強みを持っています。
NSW 2040 Economic Blueprint冒頭
© State of New South Wales (NSW Treasury), (2019)
西シドニー開発の中核を担うNSW州は,11月20日に州全体の中長期的な経済戦略,12月4日にグローバル戦略を相次いで発表ししています。経済戦略は,現在の恵まれた経済状況を基盤に,持続的な経済成長,競争力のある人材,住みやすい都市,生産性の高い地方部,先進的で世界水準のビジネス,環境と資源管理,効率的な政府を実現しようとするものです。グローバル戦略は,この経済戦略を補完する形で,シドニーとNSW州がオーストラリアのグローバル・ハブとしての指導力を発揮するためのもので,NSW州の上級代表(Agent General, Senior Commissioners)が,ハブ都市となるNY,ロンドン,ムンバイ,シンガポール,上海,そして東京に今後配置されることが発表されました。
Society 5.0(出典:内閣府)
現在,日本は将来に向けて,内閣府や経団連をはじめ官民連携のもとで,「持続可能な開発(SDGs)」を掲げて「Society 5.0」を推進しています。Society 5.0とは,サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を構築する構想です。これを,交通,医療・介護,ものづくり,農業,食品,防災,エネルギーといった幅広い分野で推進しようとしています。
オーストラリアでは,連邦政府・州政府・地方自治体が連携して,未来に向けて西シドニー開発に大規模な投資をコミットし,質の高いインフラを整備しようとしています。今こそ日本は,この「Society 5.0」を西シドニー開発の中で現実化すべく,計画段階からしっかりと関与していくべきではないかと思います。
本年は年初から,2月に日本商工会議所の経済ミッションのシドニー来訪,3月にインフラ・ネットワーキング会合のシドニー開催など重要な行事が予定されています。これらの機会も活用しながら,西シドニー開発への日本企業の参画を促進することで,日本の技術やノウハウを西シドニー開発に活用し,それを基盤に世界各地に活用できるよう努力していく所存です。
大シドニー圏地域計画:シドニー3大都市圏構想(2018年3月改定)
https://gsc-public-1.s3-ap-southeast-2.amazonaws.com/greater-sydney-region-plan-0618.pdf
西シドニー都市協定(2018年3月)
https://www.infrastructure.gov.au/cities/city-deals/western-sydney/
西シドニー空港都市計画パッケージ(2019年12月6日)
https://www.planningportal.nsw.gov.au/exhibition/western-sydney-aerotropolis-planning-package
西部都市エアロトロポリス庁(WCAA)戦略文書(2019年12月)
https://www.wcaa.sydney/s/Delivering-the-Western-Parkland-City_December-2019.pdf
日本企業支援:西シドニー・エアロトロポリス(空港都市)開発
https://www.sydney.au.emb-japan.go.jp/itpr_ja/japanese_company.html#WSAero
NSW 2040経済青写真(NSW州中長期経済戦略)(2019年11月20日)
https://www.treasury.nsw.gov.au/nsw-economy/nsw-2040-economic-blueprint
グローバルNSW(NSW州グローバル戦略)(2019年12月4日)
https://global.nsw.gov.au/
https://www.nsw.gov.au/your-government/the-premier/media-releases-from-the-premier/going-global-putting-nsw-on-the-world-stage/
Society 5.0(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html