在シドニー総領事通信 : アーカイブ

令和2年2月21日


第8回 オーストラリアの森林火災と日本の支援 - 令和2年(2020年)2月7日

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今は世界中で新型コロナウィルスへの対応が喫緊の課題ですが,オーストラリアでは過去最大級の森林火災が継続しています。その中でも,シドニーのあるニューサウスウェールズ(NSW)州における被害は大きく,焼失面積で全体の約半分を占めています。このオーストラリアの国難に対して,日本の幅広い関係者から支援の手が差し伸べられています。当地での最新の状況について報告させていただきます。
 
 

フィッツシモンズNSW州地方消防局長官による対領事団説明会

フィッツシモンズNSW州地方消防局長官による対領事団説明会

 
 1月15日,森林火災についてのフィッツシモンズNSW州地方消防局長官の対領事団説明会に出席しました。森林火災の直接の原因は山間地の落雷が大部分で,州内の森林面積約2,000万ヘクタールのうちの約520万ヘクタール,すなわち約4分の1が焼失しているとのことです。この時点で州内の死者は20名で,その中にはボランティア地方消防隊員3名が含まれています。家屋のみならず,鉄道,道路,送電線,電話線等のインフラも大きな被害を受け,動物や生態系にも影響を与えているとのことです。
 
 

州内の焼失地域を示した説明会のスライド

州内の焼失地域を示した説明会のスライド

 
 フィッツシモンズ長官からは,約74,000人の地方消防隊員が動員され,130日以上も連続して消火活動に当たるとともに,ソーシャルメディアやスマホのアプリを活用して情報発信を大きく改善しているとの説明がありました。各国からの支援に感謝するとともに、被災後の復興のためにも、積極的に観光のため訪問してほしいとの呼びかけがあったことが印象的でした。
 
 

髙橋駐豪大使と日本人学校生徒と共にリッチモンド空軍基地を訪問

髙橋駐豪大使と日本人学校生徒と共にリッチモンド空軍基地を訪問
 

 
 1月15日,日本政府は,オーストラリアにおける森林火災に関する同国政府からの要請を受けて,国際緊急援助隊の自衛隊部隊を派遣することを決定しました。その数時間後にはC-130H輸送機2機が日本を出発し,16日にシドニー郊外にあるリッチモンド空軍基地に到着,18日には早速任務を開始しました。

 1月24日,髙橋礼一郎駐豪大使,シドニー日本人国際学校の生徒代表とともに,リッチモンド空軍基地の自衛隊部隊を訪問しました。任務開始から1週間のうちに,8か所の空港間で人員・物資を輸送したとのことで,基地からの全面的な支援を受けながら,最大限の貢献を行っていました。髙橋大使からは激励の挨拶があり,日本人学校の生徒からは「自衛隊のみなさんありがとうございます」との寄せ書きが贈られました。オーストラリア空軍のニューマン司令官からも,自衛隊の支援に対する謝意が表明されました。オーストラリア空軍は,2011年の東日本大震災の後にC-17輸送機を日本に派遣して支援しています。
 
 

JICA緊急援助物資のマスクの供与式

JICA緊急援助物資のマスクの供与式

 
 また,1月15日には,国際協力機構(JICA)を通じ,緊急援助物資としてマスク6,000枚を供与することも発表されました。1月23日にキャンベラで供与式が行われ,大村周太郎在豪大次席公使からケリー豪連邦保健省首席医務官に手交されました。
 
 

日本商工会議所の経済ミッションのシドニー訪問

日本商工会議所の経済ミッションのシドニー訪問

 
 日本の民間企業・団体からも各種の支援が寄せられています。オーストラリアの森林火災に対する日本企業や日本関連団体からの義援金は,1月24日に500万豪ドルを超えました(在豪公館集計)。ここシドニーでも,日本商工会議所が会員に寄付を募りました。2月5日から7日まで日本商工会議所の経済ミッションが当地を来訪した際も,森林火災へのお見舞いのことばが伝えられ,NSW州政府からは日本からの支援への謝意が示されました。
 

​タロンガ動物園でニック・ボイル保護部長と

タロンガ動物園でニック・ボイル保護部長と
 

 
 日豪の姉妹動物園を通じた支援も進んでいます。1月28日にタロンガ動物園を訪問した際に,ニック・ボイル保護部長から,姉妹動物園である名古屋市の東山動植物園が,森林火災から野生動物を保護するための募金活動を開始するとして,日本語でのポスター製作やウェブサイトの立ち上げが進んでいるとの話を伺いました。ボイル部長からは,動物の救助のみならず中長期な種の保全のための支援、更に観光の推進が重要であり,協力と来訪を期待しているとの話がありました。
 
 

オーストラリア・デーの東京タワーのライトアップ

オーストラリア・デーの東京タワーのライトアップ

 
 当地在住の日本人の方々も,森林火災への募金活動や広報活動を行っています。例えば,シドニーを拠点にしている写真家PhotravellerのYoriさんは,シドニー郊外のブルーマウンテンの被害状況やポートマッコーリー・コアラ病院の活動を現地取材して日本に向けて発信し,募金を呼びかけています。

 日本では,オーストラリア関係者による活動のみならず,有名なYouTuberも森林火災への募金を呼びかけており,これは160万回以上も再生されています。また,1月26日のオーストラリア・デーには,東京タワーがオーストラリア国旗をイメージしたカラーにライトアップされ,森林火災へ哀悼の意と支援を呼びかけました。
 

マクニールNSW州消防救援局次長によるNSW州消防救難局の案内

マクニールNSW州消防救援局次長によるNSW州消防救難局の案内

 

 NSW州で今回の森林火災に直接対処しているのは地方消防局ですが,都市の消火活動を所掌する消防救難局はその側面支援を行っています。東日本大震災の際に宮城県南三陸町に派遣された76名の救難チームのマクニール隊長は,この消防救難局の次長を務めています。2月3日,消防救難局を訪問して,東日本大震災での救難活動と,今回の森林火災での側面支援活動について説明を受けました。今回の森林火災では,都市部への延焼に対処するとともに,連邦レベルの調整メカニズムの下で,トラックや通信機材,支援要員等を前線に差し出しているとのことでした。
 
 

1月下旬のシドニー郊外・ブルーマウンテンズの風景

1月下旬のシドニー郊外・ブルーマウンテンズの風景

 
 当地で森林火災に対処している関係者の話を伺って感じたのは,被災した地域の復興と経済的自立の重要性です。オーストラリア連邦政府・州政府やオーストラリア赤十字なども各種の復興事業を始めていますが,日本に対しては,「是非観光に来てほしい」との期待を各方面から聞きました。シドニー近郊をはじめ,オーストラリアの多くの地域では森林火災の影響が一段落しています。被災に対する支援に加え,日本からオーストラリアへの観光客が増加し,ビジネスも発展するよう,当館としても取組を進めていきたいと思います。
 
 



 
豪州における森林火災に対する緊急援助(国際緊急援助隊(自衛隊部隊)の派遣と緊急援助物資(マスク)の供与)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008241.html 
 
自衛隊による豪州森林火災への国際緊急援助活動
https://www.facebook.com/jointstaffpa/videos/2473869032853697/ 
 
豪州における森林火災に対する日本企業や日本関連団体からの義援金(在豪州日本国大使館ウェブサイト)
https://www.au.emb-japan.go.jp/itpr_ja/donations_bushfire_disaster_relief.html 
 
名古屋市東山動植物園によるタロンガ基金への募金活動
http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/news/2020/01/post.html
 
ブルーマウンテンズ被害状況,ポートマッコーリー・コアラ病院視察
https://photraveller.com/
 
ヒカキンと一緒にオーストラリア森林火災の被災地に募金しませんか?
https://www.youtube.com/watch?v=W-viLbh55hU&t=6s
 
東京タワーのオーストラリア国旗ライトアップ
https://www.tokyotower.co.jp/event/illumination/idv-Australia/index.html
 
豪州緊急救助隊の東日本大震災での活躍
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/1329 
 
オーストラリア政府観光局:山火事に関する情報
https://www.australia.com/ja-jp/travel-alerts.html