在シドニー総領事通信 : アーカイブ
10回 ダーウィンと日本(その2): ダーウィン空爆からイクシスLNGプロジェクトへ - 令和2年(2020年)3月6日
日本もオーストラリアも,今は新型コロナウィルスへの対応が喫緊の課題です。しかし,それと並行して,目の前のやるべきことを着実に進めていくことも大事だと感じています。
毎年2月19日にダーウィンで開催されているダーウィン空爆関連行事に,日本を代表して私自身初めて出席しました。その機会に,ダーウィン郊外で運用開始後1年を過ぎたイクシスLNGプロジェクトを視察し,ダーウィン在住の幅広い方々とも意見交換をさせていただきました。
今回のダーウィン訪問は,昨年11月に続き2回目です。ダーウィンや北部準州,そしてオーストラリアと日本の関係の新たな側面を紹介しながら,両国関係の将来について考えたいと思います。
ダーウィン空爆記念日の垂れ幕
ダーウィンは,太平洋戦争開戦約2か月後の1942年2月19日に,旧日本軍の空爆を受けました。当時のダーウィンは連合軍の軍事拠点となっており,多くの一般市民は疎開して,人口は開戦前の約6,000人から約2,000人に減っていました。
それでも,この空爆により連合軍軍人・民間人約200名が死亡,艦船9隻が沈没し,市内の主要施設も破壊されました。これは,オーストラリア本土が外国による大規模な攻撃を受けた初めての経験として,ダーウィンのみならずオーストラリアにとって大きな歴史的意味を持つ出来事となりました。その後も,ダーウィン周辺地域は1943年11月まで計64回の空爆を受けています。
ダーウィン軍事博物館と館長
私は式典前日の2月18日にダーウィンに入り,市内にあるダーウィン空爆関連の展示を視察しました。
ダーウィン軍事博物館では,ノーム・クランプ館長に館内を案内していただきました。2012年にダーウィン防衛体験(Defense of Darwin Experience)を展示する新館が増設され,ダーウィン空爆時の状況を再現する映画が上映されていました。また,旧館にも旧日本軍の残した物品が多数展示され,厳しい戦争の実情を今に語り継いでいました。
また,2016年に開館した王立航空医療サービス観光施設には,ゼロ戦のレプリカ展示やダーウィン空爆のバーチャル・リアリティ・コーナーがあり,多くの人が戦争当時の雰囲気を経験できるようになっていました。
ダーウィン戦没者慰霊碑への献花
2月19日午前,ダーウィン空爆78周年に際して,北部準州豪米協会主催のUSSピアリー号沈没追悼式典,ダーウィン市主催のダーウィン空爆追悼式典,北部準州政府主催のダーウィン空爆追悼レセプションの3行事が開催されました。私も日本政府を代表して3行事に出席し,献花を行いました。
ダーウィン空爆追悼式典では,空爆が開始した午前9時58分に合わせて警報が鳴らされ,大小の銃砲が約10分間にわたり鳴り響いて,当時の厳しい爆撃戦の様子を体感させるものでした。
北部準州行政官,首席代表代行他の挨拶の後に,列席者による献花が行われました。私は在豪米国大使館,在メルボルン米国総領事館の米国政府代表と並んで献花を行い,豪側が日米豪の和解に配慮していることを感じました。北部準州豪米協会と北部準州豪日協会の代表も,同様に肩を並べて献花を行っていました。
この式典には,多数の子どもたちも参列して献花を行っており,次世代に戦争の経験を語り継ごうというダーウィンの人たちの思いを感じました。
北部準州政府主催レセプション
引き続き北部準州政府主催レセプションが議事堂の大ホールで開催されました。ニコル・マニソン副首席大臣兼財務大臣は北部準州政府代表としての挨拶の中で,ダーウィン空爆を行った日本が,今や同じダーウィンの地でイクシスLNGプラントに日本国外最大の投資を行っていると述べ,時代の大きな変化を強調していたことを嬉しく思いました。
イクシスLNGプロジェクト視察
翌20日には,イクシスLNGプロジェクトを視察しました。このプロジェクトはINPEX(国際石油開発帝石)が日本企業初の操業主体(オペレーター)として推進し,400億米ドルに上る巨額の投資と多数の日本企業の技術を結集して作られたものです。
ダーウィン市内中心部から車で45分ほどの場所にありますが,LNGという可燃物を取り扱っていることもあり,立ち入りには作業服を着て電気製品を預ける必要があるなど,万全の事故防止策を取っていました。中に入ると広大な敷地にLNGタンクや発電施設など巨大な設備が立ち並び,それがコントロールセンターで集中管理されていました。
一昨年10月の操業開始後順調に運用され,ダーウィンに600名の雇用を生み出しているとのことです。日豪間の強い信頼関係があってこそ,このような巨大プロジェクトが長期にわたり安定して運用できるものと感じました。
北部準州貿易・ビジネス・イノベーション省との意見交換
今後の課題は,イクシスLNGプロジェクト操業開始後の北部準州との経済関係の更なる強化です。20日午後,北部準州の貿易・ビジネス・イノベーション省,第一次産業・資源省,観光・スポーツ・文化省の幹部と意見交換を行いました。
現在,日本企業は北部準州で,エビの養殖事業,シェールガス・レアメタルの開発,再生可能エネルギーを活用した農業の実証実験などに取り組んでいます。また,ウルル(エアーズロック)の人気もあり,北部準州への観光客は日本人が第一位です。これから,日本企業と北部準州政府の双方の事情や課題を聞きながら,ビジネスや観光が一層進展するよう後押ししていきたいと思っています。
ダーウィン高校の日本語クラス
北部準州の日本語学習者は対人口比で全国平均を大きく上回っているということで,21日金曜日の午前にダーウィン高校の日本語教育クラスを視察しました。ダーウィンはアジアと地理的に近接していることもあり,外国語の教育に熱心で,特に日本語はアニメをはじめとする文化の魅力で人気があるとのことです。東京オリンピック・パラリンピック大会の機会に,日豪の学校間で交流を深めるための打合せも行いました。
北部準州豪日協会役員との意見交換
以上のようなダーウィンでの日豪間の和解や交流の推進役となっているのが,北部準州豪日協会(AJANT)です。今回,初めて日豪双方の役員と意見交換を行うことができました。オーストラリア人の役員の皆さんは,日本に何年も滞在した経験があり,流暢な日本語を話していました。
仕事の合間にボランティアとして活動しているとのことでしたが,日本文化祭や映画祭など様々な行事を企画し運営する役員の皆さんの熱意と団結力に強い印象を受けました。
今後,日本が北部準州でビジネスを通じて貢献を強化するのみならず,日本文化や日本語をはじめ幅広い分野での相互理解と交流を深めていくことが重要と感じました。これからも定期的にダーウィンを訪問し,協力関係を推進していきたいと思います。
ダーウィン空爆記念日(ダーウィン市)
https://www.darwin.nt.gov.au/explore/whats-on/community-celebrations/bombing-of-darwin-day-commemoration
https://www.darwin.nt.gov.au/council/news-media/news/bombing-of-darwin-day-2020
ダーウィン軍事博物館/ダーウィン防衛体験
https://www.darwinmilitarymuseum.com.au/
https://defenceofdarwin.nt.gov.au/
王立航空医療サービス(RFDS)ダーウィン観光施設
https://www.rfdsdarwin.com.au/
北部準州議会
https://parliament.nt.gov.au/
イクシスLNGプロジェクト
https://www.inpex.co.jp/ichthys/
北部準州の投資機会
https://theterritory.com.au/invest
北部準州豪日協会(AJANT)
https://www.ajant.org/